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第V部 今後に向けて ・ 第24章

戦略スキルを高める方法

この章の狙い: 戦略の素材をどこから集め、過去と現在の戦略をどう診断し、どんな方針と運用で自分の戦略スキルを継続的に高めていくか。理屈ではなく実践のための具体的なアドバイスをまとめる。

24.1 戦略策定の探究

戦略スキルを高める出発点は、良い戦略の事例を数多く読むことだ。著者はエンジニアリング戦略の素材を集められる場所として、大きく「公開リソース」と「非公開リソース」の二つを挙げる。

公開リソースには、エンジニアリング戦略に関連した公開ブログや記事、本書で扱ったような公開リソース、そして本書のコンパニオンに収録した戦略のミステリー集などがある。公開された戦略は読みやすい一方で、書き手が公開を意識して整えているため、生々しい議論や失敗の機微までは見えにくいという限界がある。意思決定の過程が削ぎ落とされ、結論だけが残っていることが多い。

そこで重要になるのが非公開リソースだ。自分が所属する、あるいは過去に所属した組織の中で実際にやり取りされた戦略は、公開されたものよりはるかに学びが多い。これらは内部にしか存在しないため外からは触れられないが、当事者として、または近くで観察できる立場にいる人にとっては、最も濃い学習材料となる。意思決定に至るまでのミーティングや調整、葛藤を含めて生の文脈を読み取れるからだ。

24.2 過去と現在の戦略を診断する

学ぶための戦略を集めることは最初の重要な一歩であり、それは最初のステップにすぎない。次に必要なのは、それらの戦略をスキル向上のために診断することだ。著者は、本書のドキュメント9-1の階層型プロダクトのリリース型のアプローチ(リファクタリングの戦略)にこの診断手法を当てはめて実演する。

診断するときは、いくつかの問いを自分に投げかけるとよい。たとえば、戦略の初期フェーズはどんな可能性を考慮していたか/それぞれの戦略がどのフェーズに位置づくか/一つに統合された戦略か、それとも複数の戦略の集まりか、といった問いだ。さらに、診断・方針・運用のどのアプローチが採られたか、その後どう変化したかを確認する。

このように複数のフェーズに分けて、各フェーズで意思決定がどう進み、運用の仕組みが何を解決したかを切り分けて読むと、戦略の構造が立体的に見えてくる。ある戦略が「うまくいったか」「うまくいかなかったか」だけでなく、なぜそうなったのかを理解できるようになる。

24.3 戦略スキル向上のための方針

高度な戦略スキルを高めるには、大きく二つの方針がある。一つは現実に戦略を実行すること、もう一つは戦略の振る舞いを練習することだ。より診断と運用を強く意識した方針として、著者は次のような実践指針を挙げる。

まず、自社の進行中の戦略にできるだけ多く関わること。会社全体のスコープで取り組む機会がない場合は、自分のチームや自分の役割という小さなスコープからでも始められる。そのうえで、自社で採られたあらゆる過去の戦略を診断する習慣を持つこと。さらに、自社の戦略だけでなく、業界全体に視野を広げ、他社の公開された戦略についても診断のレンズを当てる。本書のコンパニオンにある「モデル・ドキュメント・シェア」のような素材が役に立つ。

同時に、他人の戦略を診断する際は、ただ批判するのではなく、自分が同じ立場ならどう考えるか・どんな代替があったかを想像すること。意見が分かれる論点ほど、自分なりの立場を取ろうとすることに価値がある。これらを一度に全部やろうとすると大変なので、まずは一つか二つのフェーズに絞って始めるのがよい。トラクション(手応え)が得られない場合は、別のアプローチに切り替える柔軟さも要る。

24.4 戦略スキル向上のための運用

練習も近づいてくる頃には、どんなに優れた方針も、それを確実に実行するための運用の仕組みとセットでなければ続かない。方針が現実になるには、それを日々の習慣に落とし込む運用上のテクニックが要る。著者はいくつかの具体策を挙げる。

まず、自社の戦略を自分用にリスト化して記録すること。次に、ドキュメント化した戦略をスプレッドシートやフォルダなどに整理して保存する。さらに、診断・方針・運用のフォーマットを使って自分の戦略をレビューする習慣を持つ。一人でやりにくければ、同僚や学習サークルと一緒にレビューしてもよい。自分一人では偏りがちな視点を補ってくれるからだ。定期レビューで、本来やるべきことが手薄になっていないかをチェックするのも有効だ。個人の習慣を記録するのは違和感があるかもしれないが、やる価値はある。著者は本書のドキュメント9-1の「2024-in-review」のように、自分の活動を定期的に振り返ることを勧めている。

24.5 おわりに

戦略に取り組む時間が取れないときもある。そんなときは、現実の戦略にコメントを付けてみる、戦略を一つだけ書いてみる、本書のような戦略集を読み返す、といった小さな一歩で十分だ。手応えが得られない練習があれば、別の練習に切り替えればよい。完璧を求めて何もしないより、小さく続けることのほうが価値がある。

著者はこの章の締めくくりとして、戦略スキルは特別な才能ではなく、素材集め・診断・方針・運用という地道なサイクルを回し続けることで誰でも高められる、というメッセージを伝えている。次章では、さらに深く学ぶためのリソースを案内する。

キーポイント整理

理解度チェック(選択式)

習熟度チェック(記述)